テックリード(TL)の仕事内容と将来性

 テックリードとは、エンジニアチームでリーダーと窓口の役割を兼任するポジションで、既に欧米等では馴染みがあり多くのテックリードが存在しますが、近年日本でも同ポジションのニーズが増えてきております。そこで今回は仕事内容と将来性含め、解説します。

1.テックリードとは?

 テックリード(Tech Lead、TL)は、エンジニアチームでリーダーと窓口を兼ねる役割です。リーダーとしては、チームの業務進捗や生産性の管理、メンバーのスキル育成などが要求されます。窓口としては、会議の出席や、ほかの部署との問い合わせ対応などを担当する立場です。
エンジニアリングマネージャー(Engineering Manager)と似た立場ですが、テックリードとエンジニアリングマネージャーの大きな違いといえるのは部下の有無です。テックリードはチームやプロジェクトに対してコードやデザインといった技術的な面や品質についての責任は負い、リーダーシップを発揮しますが、基本的に上司として部下のキャリアパスなどに責任を負うことはあります。
 テックリードというポジションは、日本ではまだ広く浸透しているとはいえませんが、ニーズはあります。たとえば、他部署との連携を行う人物がおらず、開発業務が円滑に進まない状況にはテックリードの活躍が効果的です。

2.テックリードとCTOの違い

 「CTO(Chief Technical Officer・最高技術責任者)」は、組織において最も高い技術レベルを持ち、技術的な面で責任を負うポジションを指します。エンジニアのキャリアパスの最終目標としてよく挙げられるもので、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)などと並列的に考えられます。
CTOとテックリードの違いは、管轄する規模にあるといえます。一般的にCTOは経営上層部のポジションで、ビジネス戦略や技術戦略、投資先の決定などに関わります。一方、テックリードが牽引するのはチーム単位です。担当するエンジニアチームに関することには決定権を持ちますが、CTOのように全社的な権限は持たないことが多いでしょう。
 CTOとテックリードの業務は、目的にも違いがあります。CTOはテクノロジーによって事業成果を出すことを目的としています。一方、テックリードは、チームのメンバーが開発に集中できる環境づくりが主な目的といえます。
ただし、ミニマムなスタートアップ企業や、小規模企業のCTOは、テックリードと大きな違いがないこともあるでしょう。企業が小規模であれば、コーディングなど開発の実務の一部にCTOが携わることも考えられるためです。

3.仕事内容

①チームの生産性向上

 テックリードは、チームの生産性を最大化させる存在です。そのため、プロジェクトの進行中にチームに無理や無駄が発生しないよう、事前に障害となりそうな業務やフローを取り除き、開発環境を整備しなければなりません。
他部署との情報共有や今後の流れについて確認するため、プロジェクトが動き出す前の段階から企画ミーティングに出席します。このミーティングでは、プロジェクトが技術的に実現可能か、無理がないかといった点について、テックリードに意見が求められることもあるでしょう。開発や実装の段階で起こり得る、工程のやり直しや待機期間などを防ぐため、詳しくチェックしていきます。
 上述のとおり、テックリードはプロジェクトが動き出す前から積極的に動いていきます。開発チームの負担を減らし、生産性を上げるためです。 このようにチームの生産性を向上させる役割であるテックリードには、以下のような能力が要求されると考えられます。 1つは、多角的な考え方、2つ目は問題を予測する洞察力や課題発見力です。また、トラブルを防ぐための課題解決力も必要となるでしょう。

②進捗管理

 テックリードの役割には、プロジェクトの進捗管理も含まれます。スケジュールどおりにプロジェクトが進むよう、プロジェクトの進捗状況を可視化して管理します。スムーズな進捗管理のため、個人とタスクをやり取りするのではなく、メンバー全員のタスクを共有できるツールを選定・導入することなどもテックリードの役割です。
プロジェクトの進行中は、トラブルやスケジュールの遅れを最小限におさえるため、日々進捗状況をチェックします。必要があればエンジニアリングマネージャーなどとミーティングを行い、作業の優先順位の見直しなどを行います。
 また、チームが順調に業務に専念できるよう、突発的な修正やドキュメント作成などはテックリードが引き受けることもあるようです。 このようにプロジェクトの進捗管理を行うことから、テックリードには以下のような能力が求められます。 プロジェクトを計画的に進められる調整力、チームの内外との交渉を行うためのコミュニケーション力、突発的なトラブルや変更に対応できる素早い判断力などです。臨機応変に対応できることが要求されます。

③プロダクト設計

 テックリードは、チーム内のエンジニアと協働して、プロダクトの設計にも携わります。設計の方針、使用するソフトウェア、データの保存形式、使用するライブラリなどの大筋を決定するのも、テックリードの役割です。 テックリードは、メンバー全員が問題なく開発に取り組める環境を整え、チームの主動的立場となります。また、最終的な決定に関しても責任を持ち得る立場です。
 チーム内のエンジニア全員が納得できる設計が求められるため、チーム内で議論になりそうな点は、あらかじめ関連資料などを用意しておくことも、重要な業務の一つでしょう。 上記のような経緯から、テックリードは自身のシステム開発スキルに加えて、新しい技術への知見も求められます。メンバーから「このような新しい技術が使いたい」といった意見が挙がれば、その技術で開発可能か検討する必要があるためです。

④他部署への対応

 テックリードは、窓口といわれるとおり、プロジェクトを進めるうえで必要な他部署との対応を担います。そのため、コミュニケーション力は高いほうがよいでしょう。
他部署やクライアントからの質問が多い現場では、メールやチャットの対応に時間をとられがちです。しかし、窓口の役割はテックリードが担うので、チームメンバーは開発に専念できます。つまり、開発以外の負荷が減り、生産性が向上することにつながります。
 しかし、テックリードが技術的な質問に対応できないと、結局チームメンバーに負担をかけてしまいます。したがって、テックリードには高い技術力が不可欠です。開発の実務経験が豊富であることはもちろん、JavaやRubyといったプログラミング言語、AWS(Amazon Web Services) / GCP(Google Cloud Platform)といったクラウドサービス、GitHubなどの情報共有ツールの知識も必要となるでしょう。また、それを相手に分かりやすく説明する語彙力や説明力も求められます。

⑤チーム内メンター

 テックリードは、チーム内でメンター(指導者・助言者)として、相談を聞く役割を担います。プロジェクトを進めていく中で、チーム内のトラブルや不満、意見の対立などが発生することは多くあるでしょう。月に1回は各メンバーと1対1で話をする機会を設けるなどしてメンバーから業務に対する意見を聞き出し、解決のための行動をとる必要があります。
チームメンバーから聞き取った問題点や意見の中には、テックリードだけで解決できないものもあるでしょう。解決方法検討のため、他部署やマネージャーと協働するケースもあります。
 テックリードは、メンバーが業務を極力円滑に進められるよう、相談にのったり交渉を行ったりする必要がある立場です。相手が相談しやすく、自分も相手から率直な意見を引き出せるようなリーダーシップとコミュニケーション力が求められるでしょう。

⑥ソースコードをはじめとした品質向上

 テックリードの役割の一つは、コードを含むプロジェクトの品質を向上させることです。問題なく動作し、セキュリティ水準もクリアし、将来的にもメンテナンスがしやすいコードを作成を目指します。そのため、テスト手法の選定やテストの自動化、検証項目の選定なども、テックリードに要求されるスキルとなります。
 しかし、テックリードひとりで全コードの品質管理やレビューを担うのは難しいでしょう。そこで、チームのコード・品質に関する意識改革が必要になります。チームの意識改革は、テックリードによる、メンバーへのコードや業務についてフィードバックによって実現できるでしょう。ときには、クライアントからのフィードバックをメンバーに伝えることもあります。そのため、プロジェクトで使用する技術知識は必須です。的確な指摘ができなければ、メンバーからの信頼を失うことにもなりかねません。

4.求められる要素(スキル/経験)

※各レベル(経験値)別で記載しており、あくまでも目安です(求人により変動します)
・Web/オープンをはじめとしたシステム又はアプリの要件定義~テスト/運用経験
 →言語等不問
・クラウドをはじめとしたインフラ領域の知見又は業務経験
・システムアーキテクト設計経験
・開発/テストフェーズでのプロセス改善経験
・マネジメントタスク経験

5.年収

 テックリードはまだ日本では職種として定着していないため、明確な年収を提示することはできません。
一般的なエンジニアの年収が400~600万円とされているので、それよりは多くもらえるというのが目安になるでしょう。 テックリードの日本での立ち位置は、一般的なエンジニアと同等またはマネージャーと同じポジションといえますしマネージャーの平均年収が670万円とされているので、そのぐらいがテックリードの平均年収となるでしょう。
 これからテックリードの地位が確立されていくことで年収アップも期待できるはずです。

6.将来性

 テックリードは日本ではこれから確立されていく職種となります。
今はまだテックリードの地位が確立されていませんが、これからテックリードが優遇されていくでしょうし、日本ではテックリードの人数が少ない分、これから多くのチャンスがあるといえます。
現在システムエンジニアとして活躍しているのであれば、ITアーキテクトを目指すことでテックリードを担うことが可能ですし、さらにスキルや経験を積んでITコンサルタントやCTOを目指すのもおすすめでしょう。
 テックリードを目指すことは、システムエンジニアからさらなるキャリアアップを目指すことができます。